朝目が覚めたのはおよそ7時。
朝食を食べながらテレビを眺めた。
テレビでは今日も例の銀行強盗のニュースをやっていた。
どうやら数十年前の模倣犯らしいが、相変わらず犯人は見つかっていない。
モンタージュ写真も出たそうだが、気付いたら食卓で寝てしまっていたらしく、生憎見る事ができなかった。
電車は空いていた。しかし空いていたのは自分の周りだけだった。
訝しく思い自分の周囲を見回すと、そこにはぽっかりと「酸素の穴」
が空いていたのだった。
息をしていない自分が不思議だったが、今更何をできるわけでもあるまいと思い、黙々と般若心経を読みふけることにした。
「無眼耳鼻舌身意」。
これはキーワードかもしれないと思って黄色の蛍光ペンでアンダーラインを引いたが、そこからは何の応答も返ってこなかった。
けれども空しくはならなかった。
なぜなら今日は期末テストの初日だから。
そうこうしているうちに学校に到着した。
今日起床が普段より遅いのは、テストが2時間目からだからである。
ちなみに今朝道中聴いていたのはオールマンブラザーズバンドのフィルモアイーストでのライブ。今ひとつ集中できなかったが、何も聴かずにくるよりはましだろうと、適当に聞き流していた。
教室には既にたくさんの人がいたが、不思議と音は何も聞こえてこなかった。まさか「無眼耳鼻舌身意」かと思ったが、それには条件が足りない。
そこへ一つの騒音が入ってきた。同時に自分の意識は先週の夕方の帰り道へと飛んだ。
「かわいい魚屋さん」だった。そんな唄があるのかはよく知らないが、
ありがちな児童唱歌の雰囲気を醸し出した唄が、後ろの方から、のろのろとしたエンジン音とともに響き渡っていた。
試験監督の先生が何やら大きな声でしゃべっている。
意識は戻ったみたいだ。
「うるさい」と言っているようだった。
あんたの方も十二分にうるさいよ、とか思ったけれども、そんなくだらない問答には飽き飽きしていたので、そう思わなかったことにしておいた。
チャイムが鳴った。
そして、
もう一度、
チャイムが鳴った。
昨夜あまり眠れなかった理由が、日中の過剰な睡眠によるものであることは自明だった。
当然眠い。何か自分を呼び止めるような声が聞こえたが、人と関わる気はあまりしたかったし、早く寝たいとも思っていたので、適当に流して帰ることにした。
「おまえが帰るならおれも帰ることにしよう。テストなんて所詮気休めにしかならん。」
「そういっていてもチャイムが鳴るとみんな揃って鉛筆やら消しゴムやらを動かしたがるのでしょう?」
「いずれにせよ眠たいから帰る。」
化学のレポートを提出せねばならなかった。道に迷った。
というか、足が言う事を聞かなかった。
ノートを閉じていた紐が切れた。
あたふたしてそれを拾い集める自分と、それを横目に走り去っていく下級生の対比があまりに滑稽だったので、その場で大笑いしようと思ったが、声がヘリウムガスを吸ったときみたいに裏返ってしまった。
ノートのその後は知らない。
かごにぽつんと乗っかって、何かごにょごにょつぶやいていたところまでしかよく知らない。
図書室に出かけた。帰るといっていたが気が変わってしまったからだ。
冷房はついていなかった。司書の人に理由を尋ねると、驚きの表情で、
夏に冷房をつけるなんて、虫でもわいているんじゃないのかい?と言われた。
度肝を抜かれた。ずばり当たっていたからだ。
しかしこれはわいて出てきたものなんだろうか?
おとといの朝起きて、顔を洗うときに腕まくりをしたときにそれは
目に飛び込んできた。
何か黒いものが左腕の上で蠢いている。
よく見ると蛾か何かの幼虫のようだった。
しかもそれは「上で蠢いている」のではなく、中にめり込むようにして
こびりついていたのだった。
とはいえ、痛くも痒くもないため、全く厄介物だと感じなかった僕は、
それを「飼う」事にした。ただし「飼う」といってもそこに住まわすだけのことであって、なにも餌をやったりするつもりは毛頭なかったわけだが。
それ以来たまに五感の各々が時たまおかしくなったりするが、別に気にするほどのものでもないと思う。
この虫はどうやら人間の感覚を吸って生きているようだ。
でも自分の左腕の感覚からすればそれは肉汁を吸われているようにしか感じられなかったが。
昼食に友人達とマックを食べた。
トマトなんとか、っていうのを初めて食べてみた。
トマトが入っていた。
赤かった。
外ではやたら幼い双生児が歩いていた。
こんなに日本には双子ばかりいるのかと思わずにはいられなかった。
どの双子もまだよちよち歩きで危なっかしかった。
ある双子なんかは、何を間違えたのか、マックに入り込んで友人のポテトをつまみ、何事もなかったかのように帰っていった。
どの双子にも共通していたことは、まだ幼いのに、保護者らしい人が近くにいなかったと言うことだ。
なんと無謀な。
そのことをメールで伝えると、日本では少子化が進んでいるが、
双生児の出生率は格段にあがっている、との回答が得られた。
帰りの電車は空いていた。容易に空席を見つけ、座る事ができた。
寝たかったが、そうはいられない理由があった。
朝方、オットセイに食われる夢を見たからだ。
そいつは寝たらまた食うから、といった。
馬鹿馬鹿しくも僕はそれを信じてみることにしたのだった。
駅からの帰り道、受刑者が袋詰になって、五人ほど引きづられていたのを見かけた。
最初はそれを受刑者だとは全くわからなかったが、
袋から透けて見える囚人服、手錠、足枷などからそれだとわかった。
引きづっていたのは一体誰だったのだろうか?
もう今は思い出すことができない。
警官だった気もするが、ひょっとすると別の受刑者だったかもしれない。
見ていてとても気だるかった。
阿呆な暴走バイクがその列に突っ込んだ。
どうでもいいと思った。
家に着いた。
ようやく、家に着く事ができた。無事に。
鍵を開けたら
いつもの家だった。
今日はまた塾だ。ねむいめぬい。
それまでぐっすり寝ようじゃないか。
寝たって起きたって
毎日毎日
「どうせどうせ」
って言われるだけなんだろう?
それなら寝た者の勝ちさ。
朝食を食べながらテレビを眺めた。
テレビでは今日も例の銀行強盗のニュースをやっていた。
どうやら数十年前の模倣犯らしいが、相変わらず犯人は見つかっていない。
モンタージュ写真も出たそうだが、気付いたら食卓で寝てしまっていたらしく、生憎見る事ができなかった。
電車は空いていた。しかし空いていたのは自分の周りだけだった。
訝しく思い自分の周囲を見回すと、そこにはぽっかりと「酸素の穴」
が空いていたのだった。
息をしていない自分が不思議だったが、今更何をできるわけでもあるまいと思い、黙々と般若心経を読みふけることにした。
「無眼耳鼻舌身意」。
これはキーワードかもしれないと思って黄色の蛍光ペンでアンダーラインを引いたが、そこからは何の応答も返ってこなかった。
けれども空しくはならなかった。
なぜなら今日は期末テストの初日だから。
そうこうしているうちに学校に到着した。
今日起床が普段より遅いのは、テストが2時間目からだからである。
ちなみに今朝道中聴いていたのはオールマンブラザーズバンドのフィルモアイーストでのライブ。今ひとつ集中できなかったが、何も聴かずにくるよりはましだろうと、適当に聞き流していた。
教室には既にたくさんの人がいたが、不思議と音は何も聞こえてこなかった。まさか「無眼耳鼻舌身意」かと思ったが、それには条件が足りない。
そこへ一つの騒音が入ってきた。同時に自分の意識は先週の夕方の帰り道へと飛んだ。
「かわいい魚屋さん」だった。そんな唄があるのかはよく知らないが、
ありがちな児童唱歌の雰囲気を醸し出した唄が、後ろの方から、のろのろとしたエンジン音とともに響き渡っていた。
試験監督の先生が何やら大きな声でしゃべっている。
意識は戻ったみたいだ。
「うるさい」と言っているようだった。
あんたの方も十二分にうるさいよ、とか思ったけれども、そんなくだらない問答には飽き飽きしていたので、そう思わなかったことにしておいた。
チャイムが鳴った。
そして、
もう一度、
チャイムが鳴った。
昨夜あまり眠れなかった理由が、日中の過剰な睡眠によるものであることは自明だった。
当然眠い。何か自分を呼び止めるような声が聞こえたが、人と関わる気はあまりしたかったし、早く寝たいとも思っていたので、適当に流して帰ることにした。
「おまえが帰るならおれも帰ることにしよう。テストなんて所詮気休めにしかならん。」
「そういっていてもチャイムが鳴るとみんな揃って鉛筆やら消しゴムやらを動かしたがるのでしょう?」
「いずれにせよ眠たいから帰る。」
化学のレポートを提出せねばならなかった。道に迷った。
というか、足が言う事を聞かなかった。
ノートを閉じていた紐が切れた。
あたふたしてそれを拾い集める自分と、それを横目に走り去っていく下級生の対比があまりに滑稽だったので、その場で大笑いしようと思ったが、声がヘリウムガスを吸ったときみたいに裏返ってしまった。
ノートのその後は知らない。
かごにぽつんと乗っかって、何かごにょごにょつぶやいていたところまでしかよく知らない。
図書室に出かけた。帰るといっていたが気が変わってしまったからだ。
冷房はついていなかった。司書の人に理由を尋ねると、驚きの表情で、
夏に冷房をつけるなんて、虫でもわいているんじゃないのかい?と言われた。
度肝を抜かれた。ずばり当たっていたからだ。
しかしこれはわいて出てきたものなんだろうか?
おとといの朝起きて、顔を洗うときに腕まくりをしたときにそれは
目に飛び込んできた。
何か黒いものが左腕の上で蠢いている。
よく見ると蛾か何かの幼虫のようだった。
しかもそれは「上で蠢いている」のではなく、中にめり込むようにして
こびりついていたのだった。
とはいえ、痛くも痒くもないため、全く厄介物だと感じなかった僕は、
それを「飼う」事にした。ただし「飼う」といってもそこに住まわすだけのことであって、なにも餌をやったりするつもりは毛頭なかったわけだが。
それ以来たまに五感の各々が時たまおかしくなったりするが、別に気にするほどのものでもないと思う。
この虫はどうやら人間の感覚を吸って生きているようだ。
でも自分の左腕の感覚からすればそれは肉汁を吸われているようにしか感じられなかったが。
昼食に友人達とマックを食べた。
トマトなんとか、っていうのを初めて食べてみた。
トマトが入っていた。
赤かった。
外ではやたら幼い双生児が歩いていた。
こんなに日本には双子ばかりいるのかと思わずにはいられなかった。
どの双子もまだよちよち歩きで危なっかしかった。
ある双子なんかは、何を間違えたのか、マックに入り込んで友人のポテトをつまみ、何事もなかったかのように帰っていった。
どの双子にも共通していたことは、まだ幼いのに、保護者らしい人が近くにいなかったと言うことだ。
なんと無謀な。
そのことをメールで伝えると、日本では少子化が進んでいるが、
双生児の出生率は格段にあがっている、との回答が得られた。
帰りの電車は空いていた。容易に空席を見つけ、座る事ができた。
寝たかったが、そうはいられない理由があった。
朝方、オットセイに食われる夢を見たからだ。
そいつは寝たらまた食うから、といった。
馬鹿馬鹿しくも僕はそれを信じてみることにしたのだった。
駅からの帰り道、受刑者が袋詰になって、五人ほど引きづられていたのを見かけた。
最初はそれを受刑者だとは全くわからなかったが、
袋から透けて見える囚人服、手錠、足枷などからそれだとわかった。
引きづっていたのは一体誰だったのだろうか?
もう今は思い出すことができない。
警官だった気もするが、ひょっとすると別の受刑者だったかもしれない。
見ていてとても気だるかった。
阿呆な暴走バイクがその列に突っ込んだ。
どうでもいいと思った。
家に着いた。
ようやく、家に着く事ができた。無事に。
鍵を開けたら
いつもの家だった。
今日はまた塾だ。ねむいめぬい。
それまでぐっすり寝ようじゃないか。
寝たって起きたって
毎日毎日
「どうせどうせ」
って言われるだけなんだろう?
それなら寝た者の勝ちさ。
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